睡眠は資本
研究熱が高い時期になると寝ることができなくなる。
そういう時期は頭の中に常に自分の研究テーマが浮かんでおり、人と話しながら、脳みその半分では研究のことを考えてしまう。
自分の研究をどうやって人に伝えるのか。
この後どのように研究を進めていこうか。
次はどんな分子を合成しようか。
この時期一番被害を受けるのは彼女である。会話も漫然として続かず、何度も聞き返したり返事をしなかったり、いつまでも家に帰らなかったりする。どうも最近はあきらめていたりするらしいが、少しばかり申し訳なさも当然ある。しかし急いで帰っても不安や焦りで、家にいても落ち着かないし、そんな頭でセックスなんて到底できないわけで。
そういった公私の分離が24にもなってできないのは恥ずべき事なのだが、どうにもこの傾向がひどくなっている気がする。
昔から何をするにも極端で、何かに没頭するとそれ以外目に入らなくなるから、携帯や鍵、財布の紛失は毎日のように起こっていた。しかしもう24なのである。人生100年ならばもう1/4も過ぎようとしているのに。
そういいながら今日も日曜なのに、日付が変わってもラボにこもって論文を読んで、文献紹介用のスライドを作ってしまっている。人に伝えるためのスライドをつくっていると時間がいくらあっても足りない。
なにごとも伝えることより難しく繊細なものはない。誤解なく不快感なく正確に伝えることは大変に難しい。しかし、伝えることの楽しさは、この困難の対価としては十分なものである。自分で、専門外の最新研究を読みまくり、専門外の分野を根こそぎ勉強して、それを自分の研究室の人に伝えることは何より楽しい。チーム全体のベースの知識も向上するし、組織全体の発揚に寄与している感じがする。
人はチームで磨かれる。でもそのためには個の能力も必要になるのは必然。個が集まってチームになる。どうも自己集合性分子の魅力に似ているな。
単一成分の集合体も洗練されたデザインのものは大変面白いが、他成分系になると複雑さが爆発的に増幅するが、シンプルな分子でも猛烈に面白くなる。
早く帰って寝たい。でもこの仕事を終わらせないと眠れる気がしない。